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一刀の道、二刀の道

山登りにたとえて                                                   HN:はくどー

 剣道の修行は、それを山登りにたとえて語られることがよくあります。私は一刀も二刀も同じ一つの山の頂を目指す登山ルートの一つだと考えています。

 一刀の登山ルートが、山の南の梺(ふもと)から入る「南ルート」だとするならば、二刀はさしずめ東から入る「東ルート」といったところでしょうか。もっと山全体を広く見渡して古流や他の武道までも視野に入れるなら、更に北から入るルート、西から入るルート、あるいは北西から入るルートなどもあるかもしれません。取り敢えず、ここでは一刀は「南ルート」、二刀は「東ルート」として話を進めましょう。

 山のすそ野にある登山道の入り口に立っているときは、自分の目の前にある登山道しか見えません。他にも登山ルートがあることを漠然と知ってはいても、それが果たして自分が目指す山の頂に続いているのかどうか確証は持てません。

 そこで、既に前を歩く先駆者のあとについて目の前の登山道を登り始めることになります。私も中学時代にご縁のあった先生のお導きで南ルートの登山道を登りはじめました。

 おそらく山のすそ野を登っているときは、別のルートを登っている人同士は、互いの道も、そこを登る登山者の姿も見えないものですから、それぞれに全く別の山に登っているという気持ちでいると思います。

 さて、山のふもとでは、互いに大きく隔たっていた道も、山頂へ近づくにつれて、その距離は次第に縮まってきます。道を隔てていた高く深い樹林も山頂に近づくに従って低くまばらになり、徐々に視界が開けてきます。

 ひたすら「南ルート」を登り続けていた私は、ある日突然、右手の樹林の向こうに人の声を聞きました。どうやら樹林の向こう側に別のルートがあり、そこを登っている登山者がいるらしいことに気がついたのです。好奇心の旺盛な私は、樹林を突っ切って向こう側の登山道も見てみたいと思いました。そこで周囲が止めるのも聞かず、命綱一本を近くの幹にくくりつけて、樹林の中に入り込みました。

 途中で何度も転び、廻りの木々に傷つけられながらも、一心不乱に声のする方向を目指すと、やがて前方にかすかに登山道らしきものがが見えてきました。

  「ようやく、たどり着けそうだ」

そう思った矢先、私の身体はピンと張った命綱に引っ張られました。綱の長さが足りなかったのです。私がもう少し山頂に近い位置からこの樹林に入り込んでいれば、あるいは綱の長さが足りていたかもしれません。そうすれば、命綱を伝って両方の道を行ったり来たりできるようになったかもしれません。しかし、わずかに足りませんでした。

 私は、ここで決断を迫られました。

 ひとりの自分がこう言います。

  「もうすぐ先のところに別のルートがあるらしい、そしてそこを登っている人もいるようだ。これが確認できただけで十分だろう。世の中にはこの道の存在すら知らない人が大勢いる。これを知ったというだけでも、ここまで来た価値は十分にあるはずだ。さあ、早く命綱をたどって元の登山ルートに帰ろう」

 しかし、別の自分が言います。

  「せっかくここまで来て帰ってしまうのか?。もうちょっと進めばその道にたどり着き、そこを登っている人たちの話も聞けるじゃないか。今更帰っても、一緒に登っていた人たちは、もうとっくに先の方に行っているかもしれないぞ」

 さんざんに思い悩んだ私は、結局後者の自分の声に従って命綱を切りました。これでもう、元の「場所」には帰れません。

 苦労してたどり着いた道は、道とも言えないほどに厳しく険しいものでした。少しでも油断すると足を踏み外して崖下へ転落してしまいそうになります。しかも常に強風が吹き付け、岩肌にしがみついていないとあっという間に飛ばされそうです。

 しかし、荒関師範、中村師範という先駆者が、小さいながらもしっかりとしたハーケン(くさび)を岩肌に打ち込んでいてくれました。私はその小さなハーケンにすがりついて無我夢中で登りました。

 やがて突然視界が開けました。周囲にあった樹林がようやく途切れるあたりまで登っていたのです。開けた視界の彼方に大勢の人の姿が見えます。私がかつて登っていた「南ルート」を登り続けてきた人たちでした。大きく手を振っています。私も手を振って合図を送りました。

 見上げれば、樹林はようやく開けたものの、山頂はまだまだ遙か彼方の雲の中です。しかし登るルートは違っていても、目指す山の頂が同じところにあるということだけは確かに確認できました。

 ふと、気がつくと、すぐ後ろに私と同じルートを登ってくる仲間がいました。私がしがみついていたハーケンを少し大きなものに打ち直しながら、すぐ後ろをついて来てくれていました。更にその下には、もっと大勢の仲間たちがそのハーケンに縄ばしごをかけようと一生懸命です。やがてこの縄ばしごを足場に石段を築き、歩きやすい道を作ってくれる人も現れるでしょう。

 しかし、今私がここでこの道を滑り落ちてしまったら、きっと後に続く大勢の仲間たちを巻き添えにしてしまうかもしれません。

  「決して滑り落ちてはいけない」

 あらためて目の前の小さなハーケンをしっかりと握り直し、そして、一人自らハーケンを打ち込みつつ先行している中村師範に少しでも追いつくべく、また一歩一歩登り始めました。


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